地方公共団体との契約における留意点

1. 契約締結方法の制限
地方公共団体は、地方自治法(以下「法」といいます。)により契約締結方法が規定されており、一般競争入札、指名競争入札、随意契約、又はせり売りのいずれかの方法で契約を締結しなければなりません(法第234条第1項)。このうち、一般競争入札が原則的な方法とされています(同条第2項)。
2. 契約方式の制限
地方公共団体が当事者となる契約で契約書や電磁的記録を作成する場合、地方公共団体の長やその委任を受けた者、及び契約相手方の代表者による記名押印等が必要です(法第234条第5項)。ただし、各地方公共団体の契約事務規則や財務規則で契約書を省略できる旨が規定されている場合もあります(例、東京都契約事務規則第38条)。
また、地方公共団体の長からの委任事項は、事務委任規則に定められていることが多く、各地方公共団体の例規集で確認できます。
「○○(地方公共団体名)例規集(又は法規集)」とインターネットで検索すると、当該地方公共団体の条例・規則(・訓令・告示など)が検索可能な例規データベースを見つけることができます。
なお、最新の条例改正等は、地方自治体が発行する公報に掲載され、施行後、例規データベースに反映されるという流れが一般的であると考えられるため、例規データベース上の例規が最新のものではない可能性に留意する必要があります(なお、本記事は、執筆時点で最新の例規データベースを参照し、作成しています。)。
3. 随意契約について
随意契約とは、入札の方法によらず、任意に特定の者を選択してその者と契約を締結する方法です。随意契約は、地方自治法施行令(以下「令」といいます。)第167条の2第1項各号に定められた場合にのみ可能です。新型コロナウイルス対応のための緊急調達も随意契約の対象となる例として挙げられます(参照、令和2年3月3日総行行第61号総務省自治行政局長行政課長通知)。
近年の物価高騰を受けた地方自治法施行令の一部を改正する政令(令和7年政令第94号)により、以下のとおり、随意契約が可能な基準額が引き上げられました。

随意契約が可能な「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」(令第167条の2第1項第2号)とは、
「競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合」
を含み、その場合に該当するか否かは
「契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべき」
と解されています(最判昭62・3・20民集41・2・189)。
随意契約の可否については、契約締結をする担当課が第一次的には判断することになりますが、各部局の経理担当や会計部局がチェックをし、最終的な契約締結に至る場合が多いと考えられます。
随意契約を締結することになった場合、企業側としては、自社の専門知識、技術などの他社と比較した場合の優位性や実績を客観的な資料で説明し、自社との契約締結が当該地方公共団体の利益の増進につながるとの担当者の判断の合理性をサポートすることが考えられます。
4. 議会の議決を要する契約について
高額の契約については、政令で定める基準(令第121条の2の2第1項、別表3)に従い、議会の議決が必要となる場合があります(法第96条第1項第5号)。例えば東京都では、予定価格9億円以上の工事又は製造の請負契約には議会の議決が必要です(議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例(昭和39年東京都条例第14号)第2条。令和7年3月14日時点)。
議案の提出は議会開会前に取りまとめられることが多いため、議会の議決が必要な契約の締結に当たっては、契約締結日から逆算してスケジュールを組むことが重要です。
「議会の議決を得るためには、契約の相手方、内容、金額等を具体的に特定したうえで契約議案を提出する必要があることから、実務慣行上、地方公共団体の長が、特定の相手方との間で、予め、本契約の内容となるべき事項を取り決め、議会の議決を得たときに当該事項を内容とする契約(仮契約)を締結する旨を合意しておくのが通例」(静岡地判沼津支部平4・3・25)(かっこ内は筆者)と考えられます。
仮契約締結後、議案として決裁がなされた後に契約内容の変更をすることは基本的にはできないと考えられるため、議案提出前に契約内容を固めておく(契約交渉を終わらせる)ことが重要です。
なお、前記静岡地裁沼津支部の裁判例は、仮契約締結後に議会で契約締結議案が否決されたことに対し、民間企業側が市に対して損害賠償を求めた事案ですが、
「議会の議決自体が停止条件となっている以上、議会が契約を否決すること自体が違法な侵害行為とならないこともまた当然であり、議会が契約を否決したとしても、地方公共団体は何らの責任も負わないのが原則である。」
「ただ、例外的に、議会の否決行為そのものが違法で、かつ、議員に相手方の利益の侵害につき故意または過失が認められる場合や、長の違法な行為により議会の議決が得られず、かつ、長に同様の故意または過失が認められるような場合には、地方公共団体に不法行為責任が生じるものと解するべきである。」
「議会には、地方公共団体の意思決定機関として広範な裁量判断の余地があるものと解すべきである。したがって、議会の契約に関する議決が違法となるのは、そのような議会の裁量権を前提にしてもなおその裁量の範囲を踰越または濫用して議決がなされた場合に限られる。」
とし、議会及び常任委員会(法第109条第1項、第2項)における議論の内容を審査した上で、議会の議決が違法とはならないと判断しています。他方で、仙台高判令和4・3・22では、契約締結を否決することにおよそ合理的な理由がないとして、裁量権の逸脱・濫用による不法行為責任を肯定しています。
いずれにしても、議決の内容によっては契約が成立しないおそれがあることから、議会にて契約に係る議案が可決されるまでは、地方公共団体からの要請がない限り、業務の実行に着手をしないのがよいと考えます。
また、地方公共団体では決裁に関与する者が多く、特に部局間をまたがる事業や議会に提案する契約は決裁に時間がかかる傾向があります。企業側が自社事業に関する分かりやすい説明資料を提供することで、決裁をスムーズに進めることが期待できます。
5. まとめ
地方公共団体との契約は、民間企業間の契約とは異なる法的な制約や手続きが存在します。これらの留意点を理解し、適切な準備を行うことが、地方公共団体との円滑な契約締結につながると考えられます。