動画投稿サイト、口コミ・レビューサイト、SNS等、ユーザー生成コンテンツ(UGC、user-generated content)が投稿されるプラットフォーム事業は、企業にとって集客チャネルやマーケティング用のデータ資産としての活用が期待される一方、ユーザーによる違法な投稿や、取引に伴う決済に関する規制等、固有の法的リスクも存在します。ユーザーによる違法な投稿を認識しながら適切な対応を行わなかったプラットフォーム運営事業者に法的責任を認める裁判例もあり、買収を検討する買主としては注意が必要です。
本記事では、このようなユーザー投稿型のプラットフォーム事業を営む非上場の中小企業であるA社を[1]、買主が株式譲渡により買収する場面を念頭に、事業面の法務リスクを把握する方法と対策について説明します[2]。第1回である今回は法務DDのポイントを、第2回では株式譲渡契約書における表明保証や損害の補償に関する条項の作成のポイントを解説します。
典型的な法的リスクとして、以下のようなものが挙げられます。
生成AIを使って作成したコンテンツの投稿についても、要件を満たす場合には投稿者による著作権侵害等の違法行為と評価される可能性があり、前記と同様、プラットフォーム運営者の責任が問題となり得ます。
法務DDでは、これらのリスクをA社が以下のような方法でコントロールできているかを確認します。
併せて、実際に問題事象が発生していないかを確認するため、これまでの削除依頼や発信者情報開示請求の受領状況、炎上事例の有無、通報受領後のフロー、平素のモニタリング体制等について、A社からヒアリングを行ったり、買主において実際にサービスを閲覧し、違法投稿が大量に放置されていないかを確認する方法も、有益といえます。
このような投稿が行われるプラットフォームのビジネスモデル自体について、法務上問題となりやすい事項として、以下のようなものがあります[3]。
動画投稿サイトやライブ配信サービスにおいて用いられる楽曲の多くは、著作権による保護の対象となっています。このため大手のプラットフォーム運営事業者を中心に、音楽著作権について音楽著作権管理団体(JASRACやNexTone)と包括的利用許諾契約を、著作隣接権についてレコード会社と利用許諾契約を交わす、という権利処理が行われる一方、比較的小規模な事業者において、このような対応が不十分なケースも見られます。また、映画、アニメ、ゲーム等の映像を用いた投稿については、上記の音楽著作権等とは別途の権利処理が必要となります。
法務DDでは、サービスの運営上投稿が想定されているコンテンツに関し、問題となる著作物の種類とそれに関する権利者を特定し、適法な利用のための要件を確認のうえ、前記のような利用許諾契約の有無・許諾内容、権利者が公表しているポリシー(例えばゲーム解説動画の投稿につき非営利目的に限定するなど)とその遵守状況、ユーザーとの利用規約においてユーザーの義務・禁止行為が適切に規定されているか、利用前の適切なアラート表示がなされているか、等を確認します。
ユーザーが投稿したコンテンツについては、(著作権侵害のないコンテンツであることを前提に)原則として著作権はユーザーに帰属します。そのため、A社がコンテンツについて、サービスの運営や宣伝のために複製、公衆送信、編集等する場合には、その旨についてユーザーから許諾を得る必要があります。法務DDにおいて、利用規約にそのような利用許諾の規定が含まれているかを確認します。
ユーザー間で、またはプラットフォーム運営者が間に介在する形で、いわゆる投げ銭や、動画や自作ゲーム等個人が投稿したコンテンツの販売により、金銭のやりとりが行われる場合、決済スキームによっては、資金決済法上の資金移動業に該当して無登録での営業が違法と評価される場合があります。
法務DDでは決済フローや利用規約の内容の把握により、資金移動業の規制の適用を受けないスキームを構築済みかを確認します。
ユーザーがA社に金銭を支払ってアプリ内通貨やポイントを購入する形態のサービスについても、検討が必要です。A社のサービスのみで使用可能なものであっても、「有効期間が6か月内」や「未使用残高が3月末・9月末の基準日時点で1000万円を超えていない」などの例外要件に該当しない限り、資金決済法上の自家型前払式支払手段としての届出義務や供託義務が生じる場合があります。
法務DDでは、有効期間や未使用残高を確認し、上記の要件にあてはめて届出や供託の要否を判断します。
プラットフォームを運営するA社は、ユーザーがアカウント開設時に自ら入力して登録した情報だけでなく、投稿履歴、閲覧履歴、位置情報等、様々なデータを保有していることがあります。
法務DDでは、ユーザーから取得している情報の範囲と、これらの情報の活用方法を把握したうえ、当該情報が各々個人情報保護法等の法令上のどの概念(個人情報/個人データ、Cookie等の個人関連情報、匿名加工情報等)に該当するかを特定し、これらの取得・利用・第三者提供等が適法に行われているか、プライバシーポリシー、Cookieポリシー等に法令上必須の事項が記載されているか、同意が必要な場合は取得方法が適切か等を確認します。適法性の検討に際して事業の特性上問題になりやすい事項として、以下のようなものがあります。
併せて、過去の情報漏えい事故の有無やその対応についても確認します。
商品・サービスやデジタルコンテンツが事業者から消費者に販売されるプラットフォームについては、運営者であるA社に取引デジタルプラットフォーム消費者保護法・同指針に基づき、苦情窓口の設置等の対応が求められます。他方で、利用規約や決済フローの内容によっては、A社自身が販売主体と評価されて販売主体としての特定商取引法や消費者契約法等の遵守が必要となる場合も考えられます。
法務DDではA社のサービスの利用規約、決済フロー、取引条件等について情報提供を受けたうえで、A社、ユーザー(投稿者)、購入者の法的地位を整理し、各当事者に適用される法令とその遵守状況を確認します。
若年層による利用が想定されるサービスでは、年齢制限が設けられているか、18歳未満も利用可能とされている場合に保護者の同意が要件とされているか等が問題となります。法務DDで利用規約の内容を把握のうえ、年齢確認や同意取得等の運用状況を確認します。
A社のサービスが、iOSアプリ又はAndroidアプリとして提供されている場合、Apple App Store又はGoogle Playのデベロッパー向け規約の遵守も問題となります。これらの規約には、不適切コンテンツ、アプリの配信方法、利用者の個人情報の収集、著作権処理等に関するルールが含まれ、違反した場合にはアプリの公開停止等の措置がとられることがあります。規約の内容は非常に詳細ですが、主要な義務の内容とその遵守状況だけでも法務DDにおいて確認することが求められます。
前記1及び2のような論点に加え、当該プラットフォームを構成するソフトウェアやブランドに関する知的財産権についても確認する必要があります。なお、M&Aに伴ういわゆるスタンドアローン化リスクが事業に与える影響や情報セキュリティについてITデューデリジェンスが行われる場合もありますが、前提となる著作権の帰属やライセンス条件等の権利関係については、法務DDにおいても分析・確認することが望まれます。
A社がプラットフォームを構成するソフトウェアを継続して使用する法的根拠としては、A社が著作権等の知的財産権を有している場合と、権利者から当該権利のライセンスを受けている場合があります。
前者については、自社開発により知的財産権を有しているケースと、外部ベンダーに開発を委託し、開発委託契約書の規定に基づき著作権等の知的財産権をA社が取得したケースが考えられます[4]。法務DDでは、開発体制やソースコードの管理状況のヒアリング、開発ツールの契約名義の確認等により、自社開発であることの裏付けをとる一方、開発を外注した場合には、業務委託契約書における知的財産権条項を確認します。
著作権等の知的財産権がA社に帰属しておらず、かつ開発を行ったベンダーとの間でライセンスの合意も交わされないまま、事実上A社が使用を続けている場合は、買収後に買主の方針で別のベンダーへの乗り換えを行う際にトラブルが生じ、ソフトウェアへの機能追加等に支障を来すことがあります。法務DDでは、ライセンス契約の有無・ライセンス条件と、併せてチェンジオブコントロール条項により株式譲渡についてライセンサーの同意が求められていないかを確認します。
併せて、第三者が作成したプログラムの無断流用等による著作権侵害の有無や、オープンソースソフトウェア(OSS)のライセンス条件違反がないかも確認が必要です。OSSについては、低コストで活用できるメリットがある一方、品質や権利関係が保証されていなかったり、コピーレフト型OSSにおけるソースコードの開示義務等ライセンス条件違反が生じていることがあります。
法務DDにおいては、開発を主導したエンジニアに開発プロセスをヒアリングするとともに、OSSを利用している場合にはバージョン・利用箇所等を確認のうえ、当該OSSのライセンス条件を把握し、利用に伴うA社の義務の内容と遵守状況を確認します。
A社の主要な事業のサービス名が商標登録されていない場合、先に同様の名称を商標登録した者から差止請求・損害賠償請求を受けるリスクや、他者による無断使用に対してA社から差止請求を行うのが困難というリスクがあります。
法務DDでは、J-PlatPat(特許・商標等の情報検索サービス)等で商標の登録状況を確認し、必要なブランド名が、事業内容に照らして適切な指定役務・指定商品について商標登録されているかを確認します。
法務DDで懸念事項が確認された場合も、株式譲渡契約書の中に適切な規定を盛り込み、契約締結後クロージング日までの間に、売主や対象会社にこれらの懸念事項を治癒させたり、違反の場合の補償義務を規定しておくことで、リスクをある程度コントロールしていくことが期待できます。
これらの売主の義務について規定するのが、株式譲渡契約書における、表明保証、前提条件や補償等の規定です。第2回の「契約書レビュー編」においては、株式譲渡契約書におけるこれらの条項の作成のポイントについて説明予定です。
以 上
[1] 対象会社や買主の事業規模によっては独占禁止法が問題となる場合があり、また指定された大規模なプラットフォーム事業者には、デジタルプラットフォーム取引透明化法やスマホソフトウェア競争促進法も適用されますが、本記事では本文記載のとおり中小企業であるA社の買収を念頭に置いており、いずれも割愛します。
[2] このような事業内容に関する法務リスクのほか、A社が成長中のスタートアップ企業である場合には、ベンチャーキャピタルによる優先株出資が行われ、A社やその株式に様々な制約や義務が課せられていたり、ストックオプションが発行されていることがあります。これらの株式に関する法務リスクもM&Aにおける重要な論点ですが、事業内容にかかわらずスタートアップ企業一般に共通する問題のため、本記事では割愛します。
[3] 本記事では法律分野ごとに分類していますが、実際の法務DDにおいては、法務DD報告書の一般的な項目立てに従い、例えば(1)(2)(7)(8)は「取引契約」の項目に、(3)(4)(5)(6)は「許認可・コンプライアンス」の項目に入れ込むなどの整理が考えられます。
[4] A社が「自社開発した」と説明している場合も、作業を行ったのが従業員エンジニアか業務委託のフリーランスのエンジニアかにより、職務著作の要件の充足が異なる場合がありますので、注意が必要です。