東証1部上場会社の株主総会決議取消が認められた事例として、アドバネクス事件(東京高裁令和元年10月17日判決(金融商事判例1582号30頁)、原審:東京地裁平成31年3月8日判決(資料版商事法務421号33頁))が注目されています。本事件では、多くの争点に関して注目すべき判示がなされていますが、以下では、法人の議決権行使における瑕疵の問題、法人の職務代行者の取扱い、決議の成立時期等の主要な争点について、判示の内容をご紹介します。
(判示内容)
「原案に特別の指示があり、修正議案が株主総会において提出された場合の法人の代表者等の議決権行使の権限が問題となるところ、法人の代表者等が修正議案について議決権を行使する際、原案に関する特別の指示があれば、そこから合理的に導き出せる内容により議決権行使をする権限が与えられていると解するのが相当である。
これを本件においてみると、被告からは、決議事項として『取締役7名選任の件』と明示された招集通知がされ……、これを受けて、本件持株会において本件候補者ら7名を取締役に選任する本件会社提案に賛成する旨の特別の指示がされたこと……、本件修正動議は、本件会社提案に加えて賛成すると、本件候補者らにA、B及びCの3名を加えて10名の取締役を選任することとなり、招集通知の記載や取締役は8名以下とされている定款に反する議案といえること……を踏まえると、前記特別の指示から合理的に導きだせる内容は、本件修正動議に反対することと解するのが相当である。」
「以上によれば、Jが本件持株会の議決権を本件修正動議に賛成として行使したのは権限を逸脱したものといえる。」
「そして、被告がこの点について悪意であったかについてみると、まず、被告の総務部が、本件持株会の事務局として、会員への前記通知をし、会員からの特別の指示の連絡先となっていたこと……、本件総会の再開前にJの投票が本件持株会の特別の指示に反していることを前提とする決議結果発表原稿を用意していたこと……を踏まえると、本件修正動議に関する結果発表前の時点において、議長であるY2が本件持株会の会員からJに対し本件会社提案に賛成する旨の特別の指示があったことを認識していたといえる。さらに、Y2が、本件会社提案に賛成する株主は、本件修正動議に反対の投票をするよう説明したこと……、前記の決議結果発表原稿の内容からすると、Y2は、本件会社提案に賛成する旨の指示から合理的に導かれる内容は本件修正動議に反対することであると認識していたといえる。そうすると、被告は、Jによる本件修正動議に賛成するとの本件持株会の議決権行使が、その権限を濫用したものであることについて悪意であったといえる。」
「以上によれば、Jによる本件修正動議に賛成する旨の本件持株会の議決権行使は無効というべきである。」
(判示内容)
「議決権の行使は、議案に対する株主の意見の表明であるから、厳密な意味で意思表示に当たるかどうかはともかくとして、意思表示に準じて考えるべきであって、議決権行使の有効性の判断について意思表示や代理等の民法の原則の適用を一般的に排除する理由はない。」
(判示内容)
「書面による議決権行使の制度は、株主自身が株主総会に出席することなく議決権を行使できるための便宜を会社が図る制度であり、O銀行及びN生命の各担当者が、本件総会に職務代行者として出席した以上……、その時点で事前の書面による議決権行使は撤回されたものと解するのが相当である。そして、本件会社提案及び本件修正動議に対する投票に際し、N生命の担当者は投票せず、O銀行の担当者は白紙の投票用紙を交付したに過ぎないのであるから……、O銀行及びN生命の議決権については、棄権として扱うのが相当である。」
「よって、O銀行及びN生命の議決権行使は、本件会社提案に賛成したものといえない。」
「書面による議決権行使を認めた前記趣旨に照らせば、本件総会に出席した以上は書面による議決権行使を撤回したと解するのが相当である。仮に撤回しないと解する余地があるとしても、本件総会では株主といえども傍聴を認めないこととされ、投票前に議場閉鎖を宣言している以上……、株主は同宣言の際に退場することで欠席することができるにすぎず、退場しなかった株主を恣意的に欠席扱いすることはできないと解するのが相当である。」
(判示内容)
「書面による議決権行使の制度は、株主の意思をできるだけ決議に反映させるために株主自身が株主総会に出席することなく議決権を行使できるよう設けられた制度であるところ、上記認定事実のとおり、O銀行の担当者は、本件総会会場に入場したが、同銀行から議決権行使の権限を授与されておらず、本件会社提案及び本件修正動議についての投票の際、第1審被告に対してその旨を説明しており、第1審被告においても同銀行が議決権行使書と異なる内容で議決権を行使する意思を有していないことは明らかであったといえる。このような状況においては、上記のような書面による議決権行使の制度の趣旨に鑑み、会社において確認している株主の意思に従って議決権の行使を認めるべきであるから、投票による本件会社提案及び本件修正動議について欠席として扱い、事前に送付されていた議決権行使書に示されたO銀行の意思に従って、本件会社提案に賛成、本件修正動議に反対として扱うのが相当である。」
「第1審被告は、株主総会に傍聴者の入場を認めておらず、O銀行の職務代行者が本件総会に出席したのであるから、書面による議決権行使は撤回されたものとして扱われるべきであると主張する。
しかし、Tは、議決権の行使について何らの権限を授与されておらず、傍聴者として本件総会会場に入場したのであり、職務代行者として入場したとは認められないから、Tが本件総会会場に入場したことや投票前に議場を退場しなかったことをもって、事前の書面による議決権の行使が撤回されたものと認めることはできない。
さらに、第1審被告は、株主総会において、議長が投票により採決すると決めた場合には、投票によって意思を表明しない者の議決権をその者の内心を推測して扱うことは許されないと主張する。
しかし、Tは、本件会社提案及び本件修正動議についての投票の際、第1審被告に対して議決権行使の権限を授与されていないことから本件総会で議決権を行使しないことを明らかにしているのであるから、議決権行使書に示されているO銀行の意思に沿った議決権行使が認められるべきであり、議決権者の内心を推測して扱うものではないから、第1審被告の主張は前記判断を左右するものではない。」
「以上によれば、O銀行の議決権の行使については、議決権行使書のとおり、本件会社提案に賛成、本件修正動議に反対として扱われるべきである。」
(判示内容)
「株主総会の決議は、定款に別段の定めがない限り、その議案に対する賛成の議決権数が決議に必要な数に達したことが明白になった時に成立するものと解すべきであって、必ずしも、挙手・起立・投票などの採決の手続をとることを要するものではない(最高裁判所昭和42年7月25日第3小法廷判決・民集21巻6号1669頁)。したがって、投票という表決手続を採った場合も含めて、議長の宣言は決議の成立要件ではなく、決議は、会社が株主の投票を集計し、決議結果を認識し得る状態となった時点で成立すると解すべきである。なぜなら、そのように解さないと、……正しい集計結果によれば可決されるべき場合でありながら議長が否決を宣言した場合には、否決の決議には決議取消訴訟を提起できないため違法な状態を是正する手段がないことになるし、また、本件における本件会社提案と本件修正動議のように二者択一の提案がされている場合において、議長が一方の提案が可決された旨宣言したが、同決議が決議取消訴訟において取り消された場合、他方の決議について、上記訴訟において決議の成立要件を充足していることが確認されているにもかかわらず、議長の宣言がないから成立していないと解さざるを得ないという不当な結論になるからである。
そして、本件会社提案のうち、第1審原告X1らを取締役に選任する旨の決議は、前記のとおり決議の成立要件を満たすことからすれば……、同議案を可決する決議が成立したと認められる。」
アドバネクス事件における争点は多岐にわたっており、その他にも判断が色々とありますが、以上では、株主総会実務との関係で特に注目すべき点について紹介しました。