会社法改正の動向について-法制審議会における検討事項の概要-

1. 会社法改正の動き
平成17年(2005年)に成立した会社法は、平成26年(2014年)と令和元年(2019年)に実質的な改正がなされているところですが、昨今の国内外の情勢変化等に鑑み、会社法の見直しが必要な時期に至っているといわれています。
政府方針としても、規制改革実施計画(令和6年6月21日)や「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(2024年改訂版)(令和6年6月21日)において、会社法に関する具体的な課題が指摘され、これを踏まえ、会社法制研究会(公益社団法人商事法務研究会)や「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会(経済産業省)が発足され、会社法の改正についての議論が行われてきました。
こうした中、今年2月10日に法務大臣から、株式の発行の在り方、株主総会の在り方、企業統治の在り方等に関する会社法の規律の見直しについて諮問が発せられ、これを受けて法制審議会(会社法制(株式・株主総会等関係)部会)において調査審議を行うことになり、4月23日に第1回目の会議が開催されたところです。
2. 会社法制の見直しにおける検討事項の概要
法制審議会の第1回会議では、会社法制の見直しにおける検討事項の例として、主に以下の事項が掲げられました。以下、これらの検討事項の概要について述べます。
(1) 従業員等に対する株式の無償交付
近年、国内外の優秀な人材の獲得・維持等の観点から、従業員等への株式付与の動きが広がっています。もっとも、現行法上、株式の無償交付の対象は、上場会社の取締役又は執行役に限られているため(会社法202条の2)、実務上、従業員や子会社の取締役等に対して株式を付与する場合には、金銭債権を付与した上で当該金銭債権を現物出資させて株式を交付する方法が採られています。
この方法は技巧的であり、従業員等への株式の無償交付を認めるべきであるとの指摘がされており、株式の無償交付の対象範囲の見直しが検討事項とされています。
検討にあたっては、既存株主の利益保護、株式の無償交付の対象者、対象となる株式会社、開示、会計処理、労働法制における「賃金の通貨払いの原則」との関係などが論点となることが考えられます。
(2) 株式交付制度の見直し
令和元年会社法改正により、買収会社が被買収会社を子会社とするため、株式交付制度(被買収会社の株式を譲り受け、株式の譲渡人に対し対価として買収会社の株式を交付する制度)(会社法2条32号並びに第5編第4章の2及び第5章第4節)が新設されました。
しかし、現行制度は利用範囲が狭く、子会社の株式を追加取得する場合、持分会社や外国会社を子会社化する場合等の株式交付制度を利用できるようにすべきであるとの指摘や、株式交付親会社の反対株主の株式買取請求権や債権者保護手続等を簡素化すべきとの指摘がされています。
こうした点を踏まえ、株式交付制度に関し、利用範囲の拡大や手続きの簡素化などをどのように考えるべきかが検討事項とされています。
(3) 現物出資規制の見直し
現行法上、株式会社に対し現物出資を行う際、原則として検査役の調査が必要とされているところ(会社法207条1項)、スタートアップに対する知的財産権等の現物出資の支障となっているとの指摘がされています。また、募集株式の引受人、取締役等、証明者に不足額填補責任が定められており、特に、募集事項の決定時に適正に現物出資財産が評価された場合であっても、募集株式の引受人が株主となった時までに現物出資財産が値下がりしたときに責任が発生し得ることが、実務上のリスクとなっていることも指摘されています。
これらの点を踏まえ、検査役調査制度と不足額填補責任を中心とした現物出資規制の見直しが検討事項とされています 。
(4) バーチャル株主総会およびバーチャル社債権者集会
会社法においては、株主総会を招集するに当たって、その「場所」を定める必要があるとされており(会社法298条1項1号)、いわゆるバーチャルオンリー株主総会の開催は認められないものと考えられているところ、令和3年6月に産業競争力強化法(以下「産競法」といいます。)が改正され、一定の要件を満たし、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた上場会社においては、バーチャルオンリー株主総会を開催することができる旨の会社法の特例が設けられました(産競法66条)。
この点、バーチャルオンリー株主総会の開催については、非上場会社についてもニーズがあるとの指摘や、産競法上求められている確認を受けない場合にも開催を認め、遠隔地からの株主総会への出席をしやすくすべきとの指摘がされています。
こうした点を踏まえ、バーチャル株主総会に関する規律を設けること、これを設ける場合の要件や株主総会決議取消しの訴えの特則等をどのように考えるべきかが検討事項とされています。なおお、現行法上、同じく「場所」を定める必要がある社債権者集会(会社法719条1号)について、バーチャルオンリー社債権者集会に関する規律を設けることもあわせて検討事項とされています。
(5) 実質株主確認制度
現行法上、金融商品取引法に基づく大量保有報告制度の適用対象となる場合を除き、株式会社や他の株主が株主名簿上の株主(以下「名義株主」といいます。)の背後に存在するいわゆる実質株主を確認する制度は存在しません。
近年、株式会社の中長期的な企業価値の向上の観点から、株主との間の建設的な対話の、重要性が指摘されているが、実質株主に関する情報を確認できないため、建設的な対話について支障が生じているとの指摘があります。
こうした点を踏まえ、株式会社が実質株主を確認するための制度を設けることが検討事項とされています。
(6) 指名委員会等設置会社制度の見直し
指名委員会等設置会社においては、指名、監査及び報酬委員会の委員の過半数が社外取締役でなければならないが(会社法400条3項)、取締役の過半数が社外取締役でなければならないとはされておらず、また、株主総会に提出する取締役の選解任に関する議案に関し、取締役会は指名委員会の決定を覆すことができないとされています。こうした規律がされているのは、指名委員会等設置会社の前身である委員会等設置会社制度が導入された平成14年当時、取締役の過半数が社外取締役でなければならないとすると要件を満たす会社が少なくなるとの懸念があったため、上述のような規律をして取締役の過半数が社外取締役である場合と同等の監督機能を有する取締役会の実現を意図していたとされています。
しかし、上場会社における社外取締役の選任状況は大きく変化し、平成14年当時の懸念は必ずしも当てはまらず、一方、取締役の一部のみで構成される指名委員会のみが取締役の選任の議案の内容を決定する権限を有することは、合理性が乏しいとの指摘がされています。
こうした点から、指名委員会等設置会社制度における指名、監査及び報酬委員会の権限の見直しが検討事項として挙げられています。