令和7年6月11日に公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号。以下「令和7年改正法」という。)が公布され、その施行期日は、令和8年12月1日となりました(令和7年政令第408号)。
本稿では、令和7年改正法による改正後の公益通報者保護法(以下「新法」という。)の内容について取り上げます。
消費者庁が公表している令和7年改正法の概要資料によれば、改正事項として、①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、②公益通報者の範囲拡大、③公益通報を阻害する要因への対処、④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化の4点が挙げられています。
以下、各改正事項について、解説します。
(旧):法定指針[1]上の義務
(新):法律上の義務であることを明示
現行法に規定される報告徴収、又は助言、指導若しくは勧告に加え、従事者指定義務違反に対する勧告に従わなかった場合の命令権及び従事者指定義務に関する立入調査権の規定を新設
また、命令違反及び検査忌避(虚偽報告を含む。)に対する行為者(法人の代表者、担当者等)及び法人への罰則規定(30万円以下の罰金)を新設
内部通報制度の実効性を阻害する要因として、内部通報制度に対する労働者の認識の欠如が指摘されていました[2]。消費者庁の実態調査によれば、内部通報制度の理解度が高いと考えられる就労者は、その多くが事業者による研修や周知が理解のきっかけであったなどと回答しており[3]、内部通報制度の実効性向上に向けて、事業者による体制の周知を強化すべきとの意見が出されました[4]。これを受け、従来、法定指針上の義務であった事業者による体制の周知が、法律上の義務として明示されることとなりました。
具体的な周知に関する措置等の内容は法定指針に定められており、法定指針のパブリックコメント案[5]によれば、公益通報者保護法そのものに関する周知に加え、①内部公益通報受付窓口の設置に関する事項並びに連絡先及び連絡方法、②組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置の内容、③公益通報対応業務の実施に関する措置の内容、④公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置の内容、⑤不利益な取扱いの防止に関する措置の内容、⑥範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置の内容、⑦是正措置等の通知に関する措置の内容、⑧記録の保管、見直し・改善及び運用実績の労働者等、特定受託業務従事者及び役員への開示に関する措置の内容、⑨公益通報に係る通報対象事実についての調査への協力に関する事項について、従業員等に対し、周知・啓発(退職者及びフリーランスとして業務委託を受けていた者に対しては、⑧を除く。)を行うこととされています。
具体的な周知・啓発の方法や内容については、今後、パブリックコメントの結果や、令和7年改正法の内容を反映した法定指針の解説によって明らかになるものと考えられます。
従事者指定義務とは、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を定める義務をいいます(公益通報者保護法第11条第1項)。従事者指定義務は、常時使用する労働者の数が301人以上の事業者に課せられており、当該数が300人以下の場合は、努力義務にとどめられています(公益通報者保護法第11条第3項)。また、令和7年改正法で新設された命令権限や立入調査権限は、いずれも、常時使用する労働者の数が301人以上の事業者に対してのみ行使することができることとなっています(新法第15条の2第1項かっこ書、第16条第1項かっこ書参照)。
また、令和7年改正法による改正前の公益通報者保護法(以下「旧法」という。)上、従事者による守秘義務違反に対してのみ刑罰が規定されていました(旧法第21条)が、従事者指定義務違反及び解雇等特定不利益取扱い(後記)に罰則が設けられたことにより、従事者指定義務違反及び解雇等特定不利益取扱いが公益通報者保護法の通報対象事実となりました(新法第2条第3項各号)。
そのため、令和7年改正法施行後は、公益通報を端緒とした消費者庁による従事者指定義務違反に関する調査が実施される可能性が高まったことも踏まえると、従事者の指定が未了の事業者は、遅くとも施行日(令和8年12月1日)までに、従事者の指定を実施する必要があるといえます。
保護される通報者の範囲に、業務委託契約を結んでいるフリーランスおよび契約終了後1年以内の元フリーランスが追加され、公益通報を理由とする契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額その他不利益な取扱いが禁止行為であることが規定されました。
フリーランスの定義は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス法)の定義がそのまま用いられている(新法第2条第1項第3号等)ため、フリーランスに該当するか否かは、フリーランス法上の特定受託業務従事者等に該当するか否かにより判断することとなります。
法定指針のパブリックコメント案によれば、フリーランスも体制整備に関する周知の対象であることが明示されているため、フリーランスに対しても、自社の体制整備に関する周知が必要となる点に留意が必要です。
正当な理由なく、労働者に対して通報しないことを約束させたり、通報した場合の不利益を示唆したりする行為が禁止され、これに違反して結ばれた合意等(守秘義務契約など)は無効となります。
事業者が、正当な理由なく、通報者が誰であるかを特定しようとする行為(探索)が禁止されます。
通報妨害の禁止については、通報妨害がなされたことが外部通報先への公益通報の保護要件として規定されています(旧法第3条第3号ニ[6])が、それ自体を直接禁止する規定はありませんでした。公益通報をしないことを約束させる契約等は、民法等の一般法理(民法第90条等)により無効と考えられるものの、労働者にとってはそのことが必ずしも明らかではないことが公益通報を躊躇する要因となっていました[7]。そこで、正当な理由がある場合を除き、通報妨害行為を禁止し、通報妨害となる合意等を無効とする旨の改正がなされました。
「正当な理由」とは、事業者において、法令違反の事実の有無に関する調査や是正に向けた適切な対応を行っている場合に、労働者等に対して、当該法令違反の事実を事業者外部に口外しないように求めることなどが考えられます。具体的には、外部に情報が漏れることにより、独占禁止法において設けられている自主申告をした場合の課徴金減免制度の適用が受けられない場合などが考えられます[8]。もっとも、正当な理由として解釈で認められる範囲は限定的な場合に留めるべきとの指摘がなされている点に留意が必要です[9]。
現行の法定指針においても、体制整備義務の一環として通報者の探索防止に関する措置を講じることが義務付けられていますが、令和7年改正法施行後は、通報者探索行為そのものが禁止されることが明確化されました。
「正当な理由」とは、通報者がどの部署に所属し、どのような局面で不正を認識したのか等を特定した上でなければ、通報内容の信憑性や具体性に疑義があり、必要性の高い調査が実施できない場合に従事者が通報者に対して詳細な情報を問う行為等が考えられます。もっとも、正当な理由として解釈で認められる範囲は限定的な場合に留めるべきとの指摘がなされている点に留意が必要です[10]。
そのため、上記「正当な理由」として考えられる事由が存在する場合であっても、通報者個人の特定を避ける別の方法がないかを検討し、その方法が存在しない場合など、「正当な理由」が認められる場面は、相当限定されるものと考えられます。なお、通報された違法行為の事実関係を調査するために、社内外の関係者にヒアリングやアンケートを実施したり、関係資料を収集・閲覧したりすること自体は、通報者探索行為に該当しないものと考えられます[11]。
公益通報者に対する解雇や懲戒などの不利益な取扱い(以下「解雇等特定不利益取扱い」という。)が公益通報をした日(事業者が公益通報がされたことを知って解雇等特定不利益取扱いをした場合は、当該事業者が当該公益通報を知った日)から1年以内にされたときは、当該解雇等特定不利益取扱いは、当該公益通報をしたことを理由としてされたものと推定されます。
公益通報をしたことを理由に解雇等特定不利益取扱いをした場合、①当該解雇等特定不利益取扱いをした者(代表者、従業員等)に対しては6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、②当該行為者が業務に従事等をする法人に対しては3000万円以下の罰金が科せられます。
公益通報を理由とする解雇については、現行法第3条においても、無効である旨が規定されていました。もっとも、公益通報を理由とする解雇無効を従業員が主張する場合には、当該従業員側で、①公益通報をしたことを理由に解雇されたこと、②現行法第3条第1項各号に掲げる場合における公益通報であることなどを主張・立証する必要がありました[12]。
新法では、上記①及び②に代えて、(i)公益通報をしたこと、(ii)通報先に応じた保護要件該当性、(iii) (i)から1年以内に解雇等特定不利益取扱いがなされたことを主張立証すれば、公益通報を理由とする解雇であるとの推定が働くこととなり、事業者側で公益通報を理由とする解雇ではないことや、不正の目的(公益通報者保護法第2条第1項柱書)があることなどを主張・立証する必要があります[13]。
この点については、「事業者が公益通報を認識した上でこれを問題視していたなど、公益通報を理由とすることの疑いが残るケースにおいて推定を覆すことは困難」との指摘[14]があることから、公益通報をした事実を問題視しないことが令和7年改正法施行後はより強く求められるものと考えられます。公益通報を理由とすることの疑いが残ることを避けるという意味で、明らかに保護要件を満たさない場合(明らかに虚偽の内容で構成された公益通報である場合など)を除き、通報したこと自体を問題視することは避けるべきであるといえます。
解雇等特定不利益取扱いのうち、「懲戒」については、就業規則又は労働契約に定めた制裁として行われた場合(一般的な懲戒処分として行われた場合)には、その種類を問わず、「懲戒」に該当すること[15]から、訓戒等の比較的軽微な処分であっても、罰則の対象になり得る点に留意が必要です。特に、虚偽の疑いがある通報が行われた場合においても、当該虚偽の通報を行ったこと自体を理由に懲戒処分を実施する場合には、その通報の対象となる事実が客観的に見て明らかに虚偽である場合を除き、必要な調査を実施した上で、当該公益通報に係る事実が真実ではないこと、及び通報者において当該事実が真実であると信じる相当な理由がないこと(公益通報者保護法上の保護要件を満たさないこと)を確定させることが安全であるといえます。
なお、上記罰則規定は、「公益通報をしたことを理由として」、故意に解雇等不利益な取扱いをした場合に適用されるものですので、既に懲戒事由が存在している労働者が、弁明の機会の付与後に公益通報を実施した場合に、当該懲戒事由に基づいて懲戒処分を実施すること自体は問題とならないと考えられます。
令和7年改正法は、違反事業者や報復行為者に対する刑事罰の導入、及び立証責任の転換という両輪により、制度の実効性を飛躍的に高めるものです。事業者にとっては、公益通報対応の不備が重大な法的責任を招くリスクとなるため、通報者が安心して声を上げられる環境整備と、公正な運用体制の構築がこれまで以上に強く求められます。
以 上
[1] 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)
[2] 消費者庁「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析」(令和6年3月公表)5頁
[3]消費者庁「内部通報制度に関する就労者 1 万人アンケート調査の結果について」(令和6年2月公表)
[4]公益通報者保護制度検討会「公益通報者保護制度検討会報告書-制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて」8-9頁(令和6年12月27日)参照
[5] 2025年11月10日公示「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針の一部を改正する告示(案)に関する意見募集について」の新旧対照表を参照
[6]同号ニの内容自体は、令和7年改正法による改正の対象外である。
[7]公益通報者保護制度検討会・前掲注4)13頁
[8] 公益通報者保護制度検討会・前掲注4)14頁、脚注(26)
[9]公益通報者保護制度検討会・前掲注4)13~14頁
[10]公益通報者保護制度検討会・前掲注4)12頁
[11] 公益通報者保護制度検討会・前掲注4)12頁、脚注(20)参照
[12]公益通報者保護制度検討会・前掲注4)25頁、脚注(41)参照
[13]安達ゆりほか「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)の概要」NBL1294号20頁、24頁(2025年)参照
[14] 川嶋隆憲「公益通報を理由とする不利益な取扱いからの救済-公益通報者の立証負担の軽減を中心に」ジュリ1613号、36頁、40頁(2025年)
[15] 安達ゆりほか・前掲注13)25頁、脚注(12)