株主提案が過去最高を記録し続け、株主アクティビズムの隆盛が注目される昨今であり、大手企業による同意なき買収の提案も珍しいものではなくなりつつあります。その背景にあるのが、政府主導で行われてきた一連のコーポレートガバナンス改革であり、日本企業のコーポレートガバナンスを巡る議論はこの10年で著しく進展してきました。そして、2026年の現在でも、コーポレートガバナンスに関する注目すべき動きが多々見られます。以下では、特に目が離せない直近の動きをトピックとして紹介します。
金融庁と株式会社東京証券取引所を共同事務局とする「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」における議論を経て、2025年6月30日、金融庁は「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」を公表しました。同アクション・プログラムにおいて、CGコードの見直しを行う旨が示されたことを踏まえ、同年10月21日に「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」の令和7年度第1回会議が開催されました。
2026年2月26日には第2回会議が開催され、2026年半ば(6月頃)の改訂を目指して議論が進んでいます。
今回の改訂で注目されているのが、CGコードのプリンシプル化・スリム化です。現行のCGコードは、基本原則5個、原則31個、補充原則47個で構成されていますが、実務への浸透が進んだ箇所や、法令・上場規程と重複する箇所の削除・統合の方針が示されており、コード全体をシンプルにする方向が示されています。現行の補充原則については、原則に格上げするもの、「解釈指針」に移管するもの、コードから削除するものの振り分けが検討されています。
第2回有識者会議で示された改訂案では、現行のCGコードの観点のほか、有価証券報告書の早期開示の重要性の強調、独立社外取締役の質の向上や取締役会事務局(コーポレート・セクレタリー)の機能強化などが注目点です。コード自体はシンプル化されているとはいえ、前文や解釈指針に詳細な記述がされていることから、詳細化している側面もあります。
2023年8月に経済産業省が策定した「企業買収における行動指針」は、「同意なき買収」という表現を定着させ、日本のM&A市場に大きな影響を与えています。ニデックによるTAKISAWAの買収、第一生命ホールディングスによるベネフィット・ワンの買収など、指針公表に前後して同意なき買収の成立の事例も現れるようになり、競合する買収提案がなされる事案も増えています。指針を背景とした潜在的買収の脅威が意識されるようになり、買収提案の対象となった(対象となりうる)会社の経営に大きな緊張感をもたらしています。
一方、経産省は、各方面から指針の目的が十分に理解されていない可能性が指摘されていることにも触れ、2024年の金融商品取引法改正により公開買付制度・大量保有報告制度が見直されたことも踏まえ、「公正な買収の在り方に関する研究会」を再開し、今後2026年2月から4月にかけて2回程度の会議を開催し、関係者ヒアリングを実施のうえ、2026年5月頃を目途表物を取りまとめる予定です。
経産省の事務局資料によれば、「本指針の趣旨が十分に理解されていない可能性がある点」として、以下例が挙げられています。
特に、企業価値と株主利益(買収価格)との関係について、整理が図られることが予想されます。
2025年2月、法務大臣から法制審議会に対し「会社法制に関する諮問」(第127号)が発せられ、「会社法制(株式・株主総会等関係)部会」(部会長:神作裕之東京大学教授)において、同年4月から審議が開始されています。月1回のペースで精力的に審議が進められており、2026年3月途に中間試案が取りまとめられ、パブリックコメントを経て、2026年度(令和8年度)内の改正成立が目指されています。2026年2月の会議では「中間試案のたたき台」も公表されており、今回の改正の全容を確認することができます。
検討されている主要論点は、大きく3つのテーマに整理されます。
従業員等に対する株式の無償交付の導入が中心論点です。現行法では取締役に限定されている株式報酬としての株式交付を、従業員やグループ会社役員にまで拡大し、エンゲージメント向上や人材確保に資する制度設計が検討されています。このほか、株式交付制度の見直しや現物出資規制の合理化が対象とされています。
事前の議決権行使によって決議要件を満たした場合に株主総会の決議があったものとみなす制度の創設が検討されています。現行法では事前投票により総会前日までに決議成立が事実上確定していても総会決議が必要ですが、この規律の見直しは会社法の基本構造に関わるパラダイムシフトとして注目を集めています。バーチャルオンリー株主総会の恒久化や実質株主確認制度の導入も論点です。また、濫用的な株主提案を防止するため、株主提案権の行使要件の見直しも議論されています。
指名委員会等設置会社制度の見直しや、業務執行取締役への責任限定契約の拡大(現行法では非業務執行取締役等に限定)が検討されています。後者は、経営者の適切なリスクテイクを後押しする観点から、経済界からの要望が強い項目です。有価証券報告書の総会前開示の進展を踏まえた会社法上の規律の見直し(計算書類と有報の一体化に向けた整理等)も議題に上っています。
コーポレートガバナンス改革は一定の成果を上げており、制度改訂は一段落した印象もありましたが、以上に述べたように、直近で急激に更なる議論の深化の動きが見られるようになり、目が離せません。いずれの動きも、制度をいかに企業価値向上へと繋げていくかという視点からの実質的な改訂であるといえ、企業として横断的な視点での対応が求められるといえます。
以 上