プライム市場の逆転劇-ついに監査等委員会設置会社が主流に

2025
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弁護士
三谷革司

 東京証券取引所が2025年7月18日に公表した資料は、日本のコーポレートガバナンスにおける一つの転換点を示しました。同年7月現在、プライム市場において、監査等委員会設置会社の数(779社、48.0%)が、初めて監査役会設置会社の数(761社、46.9%)を上回ったのです。このトレンドは他の市場にも広がっており、上場企業のガバナンスは監査等委員会設置会社が主流となる時代を迎えようとしています。

 今回はこの現象を読み解きながら、株式会社の機関設計の今と未来を考えます。

【1】株式会社の機関設計とは?

 株式会社における最小限の機関構成は、株主総会と取締役のみです。小規模な非公開会社でよくみられる、最もシンプルな形です。

 会社の規模が大きくなると、3名以上の取締役によって構成される取締役会を設置することが選択肢に入ってきます。取締役会設置会社では、代表取締役が選任され、会社を代表して業務を執行する権限を持つことになります。また、取締役の職務執行を監視するため、監査役の選任も求められることになります。

 さらに、会社法上の大会社になれば、会計監査人の選任が必須となります。また、会社が大規模になると、監査の役割も分担することが必要になり、監査役会を設置することになります。

【2】「委員会型」の機関設計

 日本の会社法には、監査役(会)設置会社のほか、委員会型の機関設計である監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社があり、上場会社を中心に採用されています。

 監査等委員会設置会社は、平成26年会社法改正で導入された比較的新しい形態であり、監査等委員である取締役(過半数は社外取締役)が、取締役の業務執行の監督を行う機関設計です。監査等委員は、取締役会のメンバーとして議決権を持ち、経営判断にも参加しつつ、監督者としての役割を併せ持つのが特徴です。

 指名委員会等設置会社は、平成14年商法改正で導入され、かつては「委員会等設置会社」と呼ばれていました。取締役会の中に「指名委員会」「監査委員会」「報酬委員会」の3つの委員会を設置します(各委員会の過半数は社外取締役)。取締役会は経営の基本方針の決定と執行役の監督に専念し、実際の業務執行は「執行役」が担当する機関設計です。

【3】監査等委員会設置会社への移行のトレンド

 監査役会設置会社は、日本の会社法における古くからの伝統的な機関設計といえ、多くの企業にとって馴染み深いものといえます。にもかかわらず、近年は急速に監査等委員会設置会社に移行する会社が増えており、冒頭でも触れたとおり、プライム市場では遂に監査役会設置会社よりも多数派になりました。その背景はどこにあるでしょうか。

1)まずは、社外人材の重複感の解消です。

 監査役会設置会社では、監査役会において社外監査役が半数以上(最低2名)必要とされるほか、コーポレートガバナンス・コード(「CGコード」)原則4-8において、少なくとも2名(プライム市場では3分の1)以上の(独立)社外取締役の選任が求められます。

 一方、監査等委員会設置会社では、監査等委員も取締役ですから、社外取締役としてカウントすることができます。例えば、取締役会の過半数を社外取締役で構成している場合に、これに加えて社外が過半数の監査役会を設置することは、やや重複感があることは否めないと思われます。

2)次に、海外投資家からの評価の問題です。

 かねてより、海外投資家から、取締役会において議決権を持たない監査役による監査の実効性について疑問が呈されており、制度として分かりにくいという批判の声があります。監査等委員会設置会社は、グローバルスタンダードに近い委員会型モデルとして、評価されやすい傾向があります。

3)そして、取締役会のモニタリングモデルへの移行です。

 監査等委員会設置会社では、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるため、取締役会での審議事項を効率化し、意思決定の迅速化につながることが期待されています。

 監査等委員会設置会社には、以上のようなメリットがあることから、特にプライム市場の上場会社を中心に、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する動きが加速しています。

【4】指名委員会等設置会社はなぜ増えないのか~委員会型の会社の未来

 一方、同じ委員会型の機関設計である指名委員会等設置会社の数は、あまり増えていません。監査等委員会設置会社であっても、上場会社であれば、任意の指名委員会、報酬委員会を設置することが求められており(CGコード補充原則4-10①)、実際に設置している会社が大多数です。

 したがって、任意の制度か、法定の制度かという違いはありますが、「委員会」が必要であることは同様であるにもかかわらず、監査等委員会設置会社の方が圧倒的に人気です。

 ここで、指名委員会等設置会社の各委員会は、制度導入時の状況もあり、各委員会がかなり強い権限を持っています。すなわち、各委員会の決定事項は、法律上も取締役会においても覆すことができません。

 これにより、例えば、強大な人事権を持つ指名委員会が取締役会の意向と乖離した候補者を指名するリスクや、取締役会そのものが形骸化してしまう懸念が指摘されています。この制度の硬直性が、取締役会との権限分配を複雑にし、実務上の柔軟性を求める企業のニーズに合わなかったと考えられます。

 この点、監査等委員会設置会社では、あくまで「任意の」指名委員会・報酬委員会という建付けにすることで、各社の実情に応じた柔軟なガバナンス設計が可能であり、実務において支持を集めたということができるでしょう。今後、性質の近い二つの委員会制度を会社法においてどのように整理していくのか、興味深い論点となりそうです。

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