スポーツ観戦にあたっての写真・動画の撮影・配信等における法的問題-その2

弁護士
伊東晃

  2025年3月28日付けで「スポーツ観戦にあたっての写真・動画の撮影・配信等における法的問題」の記事を投稿しましたが、同記事で取り上げた一般社団法人日本野球機構(NPB)の「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程」がこの度改定され、2025年9月1日より施行されました(以下、改定前の規程を「旧規程」、改定後の規程を「新規程」[1]といいます)。

  本稿では、新規程と旧規程とを比較してどのような変更があり、どのような法的問題がありうるのかを、改めて考察したいと思います。

 

1 規程改定の背景

  旧規程は主催者が有する放映権等の権利を保護することを目的として設けられましたが、それにより観客がボールインプレイ中の写真・動画等をSNS等で発信することが制限されることとなりました。一部の球団では独自にSNS等に投稿することを許容した例がありましたが、NPBより改善勧告を受け、また、選手会からも旧規程の改定、見直しを求められるなど、混乱が見られました[2][3]。

他のプロスポーツにおける規制より厳しいこの制限には賛否両論があったところであり、SNS等の利用がさらに広がる中、今回の改定が行われることとなりました[4]。

 

2 配信・送信に関する規制の緩和

  今回の改定で最も注目すべきは、配信・送信に関するルールが大きく緩和された点です。改定のポイントは、選手のプレーシーンを撮影した写真(静止画)についてはSNS等での配信・送信を制限なく可能とし、プレーシーンの動画の投稿については、60秒以内で編集・加工されていない動画であれば、1人(1アカウント)につき1試合あたり1回の配信・送信を可能とした点にあります。

(1)主な変更点

ア 写真(静止画)の取扱い

  旧規程では「ボールインプレイ中のプレーヤーを撮影した写真・動画等」の配信・送信は禁止されていました(旧規程第3条第3項第2号)。しかし、新規程ではこの項目が削除され、写真の配信・送信は原則としてグラウンド内外や試合中であるかを問わず行うことができるようになりました(新規程第4条第2項)。

イ 動画の取扱い

  旧規程ではボールインプレイ中のプレーヤーを撮影した動画(上記ア)、「ボールインプレイ中のプレーヤー以外」の動画のうち、140秒を超えるもの、試合中に配信・送信するものについては配信・送信は禁止されていましたが(旧規程第3条第3項第2号ないし第4号)、新規程では動画のルールがより詳細に分類されました。

(ア)イニング中の動画

  グラウンド内を撮影した動画については、動画を編集せず、60秒を超えない動画であって、かつ、1人がその試合につき1回に限って試合後に配信・送信が可能となりました(新規程第4条第3項第1号)。

(イ)イニング中以外の動画

  グラウンド外及びイニング中以外のグラウンド内を撮影した動画については、140秒を超えなければ、試合中であるか否かを問わず、回数の制限なく配信・送信することができます(新規程第4条第3項第2号)。

(ウ)その他

  開幕セレモニーや記録達成時の祝賀等の際に主催者が事前に告知することにより承認した場合や、家族・友人その他これらに類する特定の者に向けた配信・送信であって、かつ、業として行われず、主催者が有する権利及び法益を侵害しないと認められる場合にも、動画の配信・送信が認められています(新規程第4条第4項)。

3 法的問題の考察

  写真、動画の配信・送信に関する規制緩和は観客がSNSなどを通じて試合の感動をより自由に共有することを後押しし、プロ野球の普及と球場観戦の価値向上に資するものと思われますが、一方で、この規制緩和は新たな法的問題を提起します。

(1)肖像権・パブリシティ権の問題

  写真・動画の配信・送信が広く認められることになったことで、より多くの試合中の写真がSNS等に投稿されると、肖像権やパブリシティ権をめぐる問題が顕在化する可能性があります。これらの権利は個人に帰属するため、主催者が直接、個々の観客の投稿を管理・削除することは困難です。仮に、選手が意図しない形で自身の写真が広まり、これを問題視した場合、選手個人が観客に対して法的措置を講じる可能性も否定できません。選手への誹謗中傷が大きな問題となっている現状を踏まえると、この点はより綿密な対応策の検討が求められるでしょう。

(2)契約違反の認定と措置のハードル

  新規程では、イニング中の動画配信が厳しく制限されています。観客がこのルールに違反した場合、主催者は「試合観戦契約」違反を理由に、配信の停止を求めたり、退場措置・入場券の販売拒否の措置を講じたりすることができます。しかし、これらの措置は観客の権利を制限する重い処分であり、その判断には慎重さが求められます。退場命令や入場券の販売拒否を行う前には、複数回の警告を行うなど、適切な手順を踏む必要があるでしょう。

  なお、旧規程下における事例ですが、球場において公式戦の試合を撮影し、旧規程第3条第3項第2号で配信・送信が禁じられているボールインプレイ中のプレーヤーの長尺の映像をYouTubeに投稿するとともに、自身で設定した有料会員に限定して多数のプレー映像を継続的に配信したほか、多額の広告収入を得るなどして旧規程第3条3項5号に該当する営利目的での動画投稿を繰り返した違反者に対し、試合観戦契約約款第8条1項16号及び同11条1項に基づき、販売拒否対象者に指定した例があります[5]。

(3)「編集」の定義規定が設けられていないこと

  上記2(1)イの(ア)のとおり、イニング中にグラウンド内を撮影した動画を配信・送信する場合は、「編集をせず」という新たな制限が設けられました。通常、自身の撮影した動画をSNS上にアップする際には、テキストやエフェクトを追加したり、トリミングをしたりといった軽微な編集をすることのほうが多いとも思われますが、そのような場合にもこの「編集をせず」という要件に違反するとみなされるのかはNPBの設けたFAQ上は明らかではなく、その解釈をめぐって議論が生じるかもしれません[6]。

(4)「写真・動画等」と「写真」、「動画」の異同

 旧規程においては、旧規程第3条第3項第1号の「動画・音声・画像・試合データ」、同項3号の「動画」との文言以外は、基本的には「写真・動画等」との文言で統一されていました。しかし、新規程においては、特定の方法や態様による写真・動画等の撮影や配信等を禁止した新規程第3条及び第4条第1項柱書では「写真・動画等」との文言を使用する一方、第4条第2項ないし第4項においては、それぞれ「写真」、「動画」のみが対象とされているため、「等」に含まれる「画像、音声及び本条第6号に定める試合データ」(新規程第2条第1号)がどのように取り扱われるのか、文言上は明確ではありません。規制緩和の流れや文言が書き分けられていることを踏まえると、「画像、音声及び本条第6号に定める試合データ」については、新規程第3条及び第4条第1項に該当しない限りは配信・送信することを許容する趣旨とも思えますが、写真・動画に類似するものであるとして、これらも規制の対象になるとの解釈もありえるところです。いずれにしても事案の集積が期待されます。

 

4 Jリーグ・Bリーグとの比較

  ところで、NPBの写真・動画等の撮影及び配信・送信に関するルールは、Jリーグ・Bリーグの観戦ルールと比較しても、独自の方向性を持っています。

(1)Jリーグ

  サッカー(Jリーグ)は、試合中の写真撮影は許可しているものの、ピッチ上の動画撮影は原則禁止としています[7]。これは、試合のライブ感を損なわないようにすることと、DAZN等の放映権を持つ事業者の権利を保護するためと考えられます。一方で、YouTube収益プログラムやアフィリエイト広告など、コンテンツに付随する広告からの収益は「営利目的での利用」に含まれないとするなど、収益化に対する一定の寛容さも見られます。

(2)Bリーグ

  バスケットボール(Bリーグ)は、コート上の動画撮影を15秒以内という明確な時間制限付きで許可しています[8]。これは、観客がSNSで試合のハイライトを共有することで、リーグの魅力を拡散し、ファンのエンゲージメントを高めることを狙ったものと考えられます。コート外の動画については時間制限がなく、NPBよりも動画の撮影・投稿に積極的であるといえるでしょう。

 

  NPBの新規程は、動画については「60秒」という新たな時間制限を設けたものの、その範囲内での配信を認めたことで、Bリーグの考え方に一部近づいたと言えます。一方、Jリーグのように「ピッチ上の動画は一切禁止」という厳格な姿勢とは一線を画しています。この違いは、各競技の特性(野球は試合の間に静止する時間が多い一方、サッカーはスピーディーな展開が続く)や、放映権の取扱いを含む各リーグのファン層を拡大するための戦略の違いを反映しているのではないでしょうか。

 

5 まとめ(主催者の権利とスポーツエンターテイメントのバランス)

  NPBの今回の規程改定は、撮影や配信に関するルールを明確化して安全と円滑な試合運営を確保しつつ、配信・送信の規制緩和によってファンによるSNSでの試合の盛り上がりを後押しするという、二つの側面を持っています。このバランスの取り方は、主催者が施設管理権や放映権といった自己の権利を保護しようとしながらも、観客の自由な発信を促そうとする姿勢の表れです。

  今回の改定は、スポーツ観戦における「権利保護」と「スポーツエンターテイメント」のバランスをいかに取るかという、現代のスポーツビジネスに共通する課題に対する、NPBの最新の回答といえるでしょう。

以 上

[1] 一般社団法人日本野球機構「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程」(2025年9月1日施行、https://npb.jp/npb/satsuei_haisin_kitei_20250901.pdf

[2] 北海道日本ハムファイターズ「『写真・動画等の撮影及び配信・送信規程』の運用に関して」(https://www.fighters.co.jp/news/detail/202500684612.html

[3] 日本プロ野球選手会「写真・動画等の撮影および配信・送信規程についての当会の見解」(https://jpbpa.net/2025/04/09/12168/

[4] 「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程の改定について」(https://npb.jp/npb/satsuei_haisin_kitei_20250901.html)

[5] 一般社団法人日本野球機構「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程 違反者への対応措置について」(https://npb.jp/npb/satsuei_haisin_kitei_ex_crackdowns.html

[6] 一般社団法人日本野球機構「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程」の改定に関するFAQ」(https://npb.jp/npb/satsuei_haisin_kitei_faq_20250901.html

[7] 公益社団法人日本プロサッカーリーグ「Jリーグ公式試合における写真・動画のインターネット上での使用ガイドライン」(https://www.jleague.jp/guidelines/

[8] 公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ「写真・動画の撮影および、SNSなどでの使用ガイドライン」(https://www.bleague.jp/sns-guideline/